横浜市内装事業協同組合(以下、内装協)は、昭和52年の設立以来、市内の小中学校を中心に公共建築物の改修工事を年間40件以上手掛け、地域の教育環境整備を支えてきました。
人手不足や働き方改革の波が押し寄せる建設業界。現場に人が足りない、週休2日制の導入も求められる―そうしたなか、内装協では2024年10月に現場を“データ上で再現する”「デジタルツインプロジェクト」を始動しました。先進的な試みを主導する中村理事長、山﨑事務局長、そして現場で活用している赤星氏にお話をおうかがいしました。
【課題】人手不足のなか、限られた期間内でより効率的に
建設現場では、熟練した職人の高齢化や若手人材の減少が進み、人手不足が深刻な課題となっています。
また、内装協が手がける学校工事は、夏休みなどの短い期間に集中して行われます。限られた時間の中で、音やにおいにも配慮しながら工事を進める必要があり、「どうすればより効率的に作業できるか」が大きなテーマとなっていました。
【導入】「デジタルツイン」で現場をまるごとデジタル化
そうしたなか立ち上げたのが「デジタルツインプロジェクト」です。「現場管理」の生産性向上を見据えて、野原グループ株式会社の紹介をきっかけに、組合員4社が試験的に参加しています。 導入したのは
- 360度の撮影ができるカメラ「Matterport(マターポート)」
- 施工管理クラウド「Stages(ステージズ)」
「デジタルツイン」とは、現実の空間をそのままデジタル上に再現する技術のことです。
3Dで再現された空間データを使うことで、現場に行かなくても細かな確認や打ち合わせが可能になります。「Matterport」で撮影したデータは自動的に3D化され、「Stages」に保存されます。
データをパソコンやスマートフォンで見ると、教室の中を歩いているかのように細部まで確認でき、建具・家具を含めたあらゆる箇所の計測ができます。これまで現場調査では、2人がかりで半日かけて数百枚もの写真を撮影し、採寸、設計段階で調査不足が判明すれば再度現場に足を運ばなければなりませんでした。その作業が、1人で所要時間も半分以下に短縮されました。


理事長のITツールに対して「どういった点において便利なツールなのか、まずは取りれてやってみよう」との方針が、事務局や組合員のデジタル化の取組みの大きな後押しに
【効果】現場負担が大幅に軽減。情報共有や設計・見積もり作業がスムーズに
現場調査の負担が大きく減り、撮影データをもとに事務所でも正確な寸法を確認できることで、設計や見積もり作業がスムーズになりました。現場の職人もスマートフォンでデータを確認できるため、施工ミスの防止にも役立っています。
さらに、「Stages」では使用した壁紙や床材などの情報を画像と一緒に保存できるため、将来、同じ現場で改修を行う際には、過去の工事記録から「どんな部材を使ったか」がすぐにわかります。協力会社との打ち合わせも現場に足を運ばずとも、クラウド上で詳細なパノラマ画像と実測値を確認できるため、少ない打合せでスムーズに進められています。
内装協ではプロジェクトメンバー4社が、現場ごとに使用感を共有し、野原グループに報告して開発元にフィードバックされるといったサイクルを回していきました。最初は手探りでしたが、使っていくと省ける工程のイメージが掴めるようになり、現場を重ねていくなかで「現場の業務負担がかなり減った」「現場監督が帰社せずに、現場で判断してできる作業が増えた」といった実感も生まれています。
「想像以上に直感的な操作が可能で、若手社員が積極的に使いこなしています。ベテラン社員に若手が操作方法を教えるなど、社内のコミュニケーションの活性化にもつながっています。」(赤星氏)
【展望】DXを地域や業界全体に広げていく
デジタルツインプロジェクトに一定の成果を感じている一方、公共工事では今も紙の完了報告が必要です。この点は業界全体での課題ですが、内装協では今後、より多くの企業に活用を広げ、行政との連携の中でデジタルによる完了報告が可能になるよう働きかけていく方針です。
民間工事の一部ではすでにデータでの報告を導入しており、「完成後の様子が一目で分かる」とお客様からも好評を得ています。

人手不足が進むなか、内装協は新しい技術を積極的に取り入れ、その使い勝手やコスト、ノウハウを組合全体で共有しています。今後は、現場の教育や新人研修の場でもこの仕組みを活用し、若手育成にも役立てていく考えです。また、こうした新たな取り組みを積極的に内外に発信し、若手人材へのアピールにもつなげていきたいといいます。
内装協では、総会や他の組合との交流の場で今回の取り組みを紹介し、「まずはやってみよう」という輪を広げていく予定です。内装協の挑戦は、地域の内装業界に新しい風を吹き込み、次世代へとつながる大きな一歩になりそうです。
横浜市内装事業協同組合
主な事業:公共工事等の共同受注事業、共同検査事業、情報提供事業
所在地:横浜市中区南仲通四丁目46番地1
組合員数:10名(取材時)
●導入ITツール:Matterport、Stages
●初期費用:3D撮影カメラ60万円程度
